「ふむ……」
高町恭也は悩んでいた。
日は沈み、就寝する直前だった。
布団はすでに敷き、他の家人も寝ている筈の時間だ。
(……どうした、ものか)
気配を、感じた。
別段、敵意があるわけではなかった。
むしろ、よく知っている人物のものだ。
しかし、だからこそ、なぜ素直に来ないのか、理由が分からない。
そこまで気兼ねする間柄でもない。夜討ち朝駆けの奇襲は当たり前であったのに、いまさら遠慮もなにも無いだろう。
(……考えてもはじまらない、か)
外へと声をかけた。

「晶、どうした?」



晶は震えた。
いたずらが見つかった子どもの気分だった。
ノックをする直前の体勢のまま10分間、じっとしていたところに声がかかったのだ。
なんの心の準備もしていない。
不意打ちもいいところだ。
とてつもない気恥ずかしさ。だが、同時に心のどこかで納得している部分もあった。
(あー、やっぱり、師匠だ)
自分の気配なんて、とっくの昔に分かっていたのだろう。
悩んでいた時間が馬鹿らしくなった。
つばを飲み込んだ。
心を決める。

「あの!」
「……」
「あの、その、相談したいことが、あるんです!」
「………それは、明日では駄目なのか? 今日は、もう遅い」
「で、出来れば、他のひとに知られたくないんですっ」

晶は、せっぱ詰まってた。
ここに来るだけでも相当量の勇気が必要だった。
ギリギリの心境で、自分を騙し騙しつつ、なんとか来れたのだ。

「あ、め、迷惑なら明日にします、けど……」
「……入れ」

すっと、ふすまが開いた。
入ってくるものを拒否しない、恭也らしいタイミングだ。

「失礼します」

晶は入った。
恭也は、布団の上であぐらをかいていた。
落ち着いた様子は、とても若者には見えない。

「あの!」
「…まず、座ろう」
「し、失礼します!」
「………」
「………」
「……それで、どうした」
「…相談したいことが、あるんです」
「…ふむ」

晶は戸惑っていた。
何をどうしたら良いか、自分でも判断しかねていた。

「お、俺…」
「……」
「俺、最近、おかしくありませんでしたか?」
「ふむ? 特には気がつかなかったが」
「そ、そうですか…」

あからさまにホッとした。

「あ、だが」

ふと思い返し、恭也は言った。

「最近は、レンと喧嘩をしなくなったな、少し淋しくもあるが、晶が引くことが出来るようになったのは良いことだと思う」
「っ!!」

晶はビクっと肩を震わせた。

「それと館長から聞いたが、空手のほうも此処のところ調子が良いようだな、珍しく誉めていた」
「………」

晶は畳を見つめてた。

「あとは、そうだな……」
「もう、いいです」
「む?」

晶は絶望的な声で言った。

「師匠でさえ、そこまで分かってるなら、もうおしまいです」
「なにやら失礼なことを言われているようだが」
「師匠!」

突然、晶は立ち上がった。
そして、勢いよくズボンを脱ぎだす。

「! 晶!?」
「黙ってて下さい!」

そのままパンツまで脱ぐ。
「!!」

恭也は座ったまま、すばやく後ろへ向いた。
目の端で、決定的な『その動き』をするのが見えた。
背中の方面で、軽い布が接地する音がする。

「!っ!っ」

それがどういう音かを考える前に、首を左右に振る。
(いかん! 俺は何を考えているのだ!)

「師匠……」

非常に思いつめた声が響く。

「師匠、見て」

甘える、といった要素がない、重い言葉だった。

「お願い……」
「で、出来るわけがないだろう? 晶は知らないかもしれないが俺は」
「知ってます、美由希ちゃんと付き合ってるんですよね」
「! 気づいていたのか」
「みんな知ってます」
「そ、そうか」

完全に隠し切れてると思っていた恭也は愕然とした。

「それより師匠!」

晶は恭也の腕を取った。

「な、なにを」

そのまま自分の胸に押し当てた。

「なっ!!!」

驚天動地、というには確信が足りなかった。

「あ、晶?」

おそるおそる、後ろへと振り返った。
手には感触が無かった。
いくら薄いとはいっても限度がある、柔らかさのカケラもない胸の感触。
筋肉の硬さしかなかった。
そして、その下半身には……
(何故、見慣れた『もの』が?)
男の象徴がぶら下がっていた。

「師匠、俺、男になっちゃった」

呆然と恭也は聞いてた。



晶はとつとつと語りだした。
このようになったのが数週間前であること。
矢沢先生にも相談に行ったが原因は分からなかったこと。
隠しながら生活していたが誰にも気がつかれず、嬉しいのか悲しいのか微妙だったこと。
女子には前以上に人気が出たこと。
そして、

「俺、嬉しかったんです」

ズボンはもう穿いている。
座りなおした状態で晶は言った。

「ヘン、ですよね、こんなことになって、最初に思ったことが『良かった』だなんて」
「………」
「なんでそう思ってのかは、分からなかったんです、
 初めのうちは強くなれるからとか、男に混じっても文句を言われないとか、そういう理由だと思ってました」
「………」

晶は恭也へ向き直った。

「けど、違ったんです」
「………」
「俺、やっぱりおかしいんですよ、こんなの、こんなこと……」
「…晶」

恭也は何とかショック状態から立ち直った。
自分の弟子に、アドバイス出来ることがあるか考える。

「晶、なんと言っていいのか分からないが…」
「あ、違うんです!」
「む…」
「男になったことには自体は、むしろ満足してるんです。悩みましたけど、結局はなるようにしかならないですし……」
「……そうか」
「それより! 相談したいことがあるんです!」
「ふむ、聞こう」
「師匠、どうやって美由希ちゃんを口説いたんですか!!」

世界が凍った。

「………」
「やっぱり、こう、す、好きだとか、愛してるとか言ったんですか!?」
「………」
「それとも、いきなり力まかせとか深夜の練習とか師匠権限でとか!?」
「………」
「し、師匠!」
「はっ!!」
「あうっ!!」

射抜きの要領で晶にツッコミを入れた。
勢いよく後ろへと転がり倒れる。

「失敬なことを言うな! それよりも、な、何故そのようなことを?」
「知りたいんです!」

起き上がりつつ晶は叫んだ。
恭也は困惑した。
彼は『甘い言葉を囁くこと』から一番遠い人間だ。
美由希の時でさえ、結局はマトモなくどき文句を言えなかった。
相手が妹的な存在であり、師匠と弟子という関係であり、
高町恭也という人物のことを理解していたからこそ、今の関係があるとも言える。

「そ、そのようなことは、あまり人に言うものではない」

彼は自分の顔が発熱しているのを感じた。

「そうですか…」
「……」
「じゃ、じゃあ意識しはじめたキッカケとかはっ!?」
「む………」

キッカケは……

「い、いいじゃないかそんなことは、それよりも何故、そんなことを聞きたがる?」
「え…」

今度は晶が黙る番だった。

「え、えー、その、言わなきゃダメ、ですか」
「出来れば教えて欲しい、そうでなければ相談のしようも無い」
「あ、あー」
「……」
「あのー、その、ですね」
「………」
「す、好きな、人がいるんです」
「ほう………………………………………………………………なっ!?」

高町恭也は気がついた。
晶はもじもじしてる。
畳目を指でなぞり、頬を赤く染めている。
その様子は恋する少女そのもの、ではあるが――

「そ、それは、その、相手は、『どっち』なんだ?」
「…………………………………おんな、です」

再び世界が凍った。
混乱が混乱を呼ぶ。
高町恭也の頭の中では高速で事態を処理しようとしていた。

(女の子じゃなくなる、これは、晶には悪いが理解できる。
前々から男っぷりが上がったとは思っていたが、そういう原因だったとは。
しかし、そう簡単に気持ちまで『男』に変えられるのか?
もし、俺が同じ立場に立たされたとしても、同性に好意は持つまい。
いや、身体が変われば異性か?
気持ちの問題さえクリアーできれば、いいものなのか……?)

疑問がとてつもない勢いで空回りをしていた。
晶の落ち込んだ声がそれを遮る。

「やっぱり俺ってヘン、なんですよね。男に変わってからそんなに経ってないのに、もう女を好きになるなんて、
 でも、師匠! 俺、好きな女ってソイツだけなんです! 男でも女でも、ソイツ以外にはもうそういう対象に見れないん です!」
「……晶」

恭也はさらに思い悩む。
今度は告白される側に立って考えてみた。
(もし、俺がそうされたとしたら、どう思うだろうか?)
舞台を想定する。相手を考えてみる。
参考にするのは、昨夜見た学園ドラマだ。
時刻は夕暮れ。
教室の、自分の席。
赤色を受けた雲がゆっくりと流れ、太陽がじらすように沈み行く。
教室の中でさえ赤で染まり、自分と相手とを奇妙な陰影で形作る。
その中で、

『恭也』
『……』

想像の中の赤星が言う。

『実は俺、女だったんだ、好きだ! 付き合って欲しい!!!』



「し、師匠?」
「………お…?」

知らず、恭也は薙旋の予備動作に入っていた。
無意識のうちに小太刀(真剣)を掴み、殺気を振り撒いていたのだ。
まるで、実際に本人が目の前にいるが如く。
晶の戸惑った声で、ぎりぎり我に返った。
誤魔化すように、咳きをつく。
小太刀を納めながら恭也は言った。

「晶…」
「はい」
「無理だ。不可能だ。やめておいた方が賢明だ」
「そ、そんな、師匠、何とかならないんですか!」
「……理解することと愛することは違う。俺でさえ反射的な殺意を押さえれなかった」
「そんなぁ……」

晶はガックリとうなだれた。

「お、俺、やっぱり諦めなきゃいけないんですか……」
「……む」
「俺、俺、どうしても……嫌ですよ! 諦め切れません!」
「……」
「だって、だって!」

涙を溜めた目で、晶は恭也を仰ぎ見た。

「だって、これからも一緒に暮らしてくんですよ!?
 好きなのに、横に、すぐ傍にいるのに我慢しなきゃいけないんですか!?」
「……ま、待て!」
「朝に会って、学校も一緒で、夕方の準備まで! ほとんど一緒なのに、俺、耐えられないです!!!」
「まさか……」
「………」
「………」
「ぐすっ………」
「その、相手というのは、レン、なのか?」

朴念仁の異名を持つ恭也にしては鋭かった。
晶は、黙り。

「………」
「………」

コクリと頷いた。

「………」
「………」
「…………それは、何と言うか…………」
「………」
「……その、微妙だな」
「だから、美由希ちゃんと付き合いってる師匠なら、同じような立場だから……」
「………」
「……相談にのってもらえるかなって……」
「いや、それはいろいろ違うと思う」
「え! だって師匠って美由希ちゃんに手を出したんでしょ!? 似たようなものじゃないですか!!」
「む?」
「だって、きんしん……」
「違う! 俺と美由希とは従兄妹だ!!」
「えー、でも長年、妹としてすごしてきたんですよね?」
「そ、それはそうだが…」
「意識の上では兄妹だったわけじゃないですか、それなのに――」
「そ、そういわれてしまえば返す言葉も無いが! しかし……」
「それは違うよ、晶」
「む?」
「え?」

第三者の声が響いた。

「み、美由希ちゃん」
「美由希…」

高町美由希は、ニッコリと微笑みながら現れた。
とてつもない迫力と共に。
両手には抜き身の小太刀を握られていた。
背景には炎すら上がっていた。うっすらと見えるのは仁王像だろうか。
一言で言えば、笑顔の修羅がそこにいた。

笑っていない目が、恭也へ向けられた。

「……恭ちゃん?」
「な、なんだ……」
「仮にも女の子を深夜に部屋に入れるなんて、恭ちゃん、どういうつもりなのかな?」
「み、美由希……?」
「私、思わず外で龍燐かまえて待っちゃてたよ?」
「いや、それは」
「いまなら『閃』、いくらでも使えそうだよ、おもいっきり」

くすくす笑う。
笑顔は変わらないが、空気がさらに重くなった。
もはや、高町家の空気ではない。
この場は異界だ。
普通に動ける人間は一人だけだった。
恭也でさえ、指一本でも動かせば命はないと確信していた。
強い弱いではない、ここは既に人類の生存に適さない場所なのだ。
そして、その決定権を持つ女性が、ぎゅるん、と音がしそうな勢いで首だけを晶の方へ向けた。

「あと、晶?」
「は、ハイっ!!」
「事情は分かったけどね? 周りからは『晶が恭ちゃんの部屋に忍び込んだ』って見られるんだよ?
 そうしたら私どうしたらいいのかな? やっと彼女になれたのにまた振り出しに戻るの?
 ね、どうおもう、晶は」
「ひっ、ご、ご免なさいい!!」
「やだ。土下座なんかしないでよ、私が晶を脅迫してるみたいじゃない。
 あ、でも、晶がズボン脱ぎだした時は「あー、私、明日の新聞に乗るのかぁ〜」って、しみじみ思っちゃった。
 誤解しちゃったね? 私ってそそっかしいから、我慢してて正解だったよ」

てへ、っと舌を出してた。
恭也の顔は引きつる。
(美由希、一体、何面でどのように載るつもりだったのだ……?)
晶の顔色は一気に青くなった。
(俺の命って危なかったんだ)
しみじみと生きていることの素晴らしさを味わった。
汗があとからあとから吹き出た。

「美由希、と、とりあえず、小太刀を収めないか?」
「あ、うん。そうだね、もう必要ないもんね? あ、あと廊下に刀傷とか、わら人形があるけど気にしないでね?」

いったい、いま廊下はどうなっているのだろうかと思いを馳せた。
とりあえず、無事な姿ではないだろう。

「そ、それで、いったい何時からいたんだ? 見事な穏行だったが」
「ん? 晶が恭ちゃんの部屋の前で待ってる時からかな? えへ、殺気て押さえるの大変なんだねぇ」
「………そうか」
「あ、それで晶、兄妹がうんぬんってことだけどね」
「は、はひっ!」
「私は恭ちゃんのことを師匠とは思ってても、兄と思ったことは一度もないよ、だから、晶が言ったことは間違い」
「な……!」
「あ、それなら」
「うん、兄妹って思っていたのは恭ちゃんだけ」
「そっかー、ヤバイのは師匠だけなんですね」
「そうだよー、兄妹の垣根を越えて禁忌の領域に踏み出したのは恭ちゃんの方なんだよ」
「あ、じゃあ、山ごもりの時なんてもしかして!」
「それはなかったんだよね、結構わたしは期待してたんだけど……恭ちゃんたらドキドキしてる私の横でぐーぐー熟睡 してるんだもん」
「あー、それはキッツイですね」
「うん、女としてちょっと自信なくしちゃったよ」

ふたりはうんうんと頷きあった。

「師匠って鈍感ですからね」
「それでいて皆を惹きつけまくってるんだからタチが悪いんだよね」
「俺が知ってるだけでも被害者数は二桁に……」
「私も大変だったよ……」
「苦労したんですねぇ」
「今となってはいい思い出なんだけど、でも、油断は出来ないんだよね」
「あー、諦めてらっしゃらない方々が……」
「……最近、母さんが妙に恭ちゃんのことを聞きたがるし………」
「そ、それは」
「待て」

恭也が止めに入った。

「いろいろと話が脱線している、元に戻そう」
「えー、恭ちゃん、誤魔化そうとしてない?」
「そうですよ、師匠の疑惑が晴れてないですし」
「恭ちゃんって、やっぱりしすこん?」
「そ、そのようなことはない!」
「えー、だって」
「ねえ」

女(?)二人で疑惑と共感の視線を確かめ合っていた。
恭也は一度、歯をくいしばると叫んだ。

「晶!」
「は、はいっ!」

恭也が晶を睨みつけた。

「晶はレンのことが好きなのだな!」
「え……」

真っ赤になってもじもじとし出した。

「それは、その好きって言うか、その……」
「晶! 何を迷ってる!」

晶らしくない、自身のない態度と言葉だった。
美由希のノンビリとした声が横から入る。

「んー、でも、レンが心臓病の手術を決心する時、晶がとった行動ってさ……」

どの方向に話を持っていくのか見当がついた恭也は、美由希と会話を合わせた。
一喝した雰囲気を消し、静かな声で返答をする。

「ああ、そうだな、下手な男よりも漢らしかった」
「もう完全に彼氏彼女な雰囲気だったしね」
「そして、レンもその愛(?)を受け入れ手術した……とすると」
「うん、そう考えれば」
「脈はある、な」
「うん、そうだね」
「本当ですか!!」

俯いていた顔が勢いよく起き上がる。
目に光りが灯った。
その奥にあるのは希望と欲望。

「まあ、断言はできないがな」
「すくなくとも嫌ってはいないよね?」
「うむ」
「そうなると後は……」

恭也と美由希は晶を見た。

「後は――」
「お前の度胸、だけだ」
「どきょう……」
「そうだ!」

恭也は晶の両肩に手を置いた。

「晶! お前の空手は技だけか? 違うだろう! お前の良さは『勢い』だ!」
「いきおい……」
「孔破もそうだが、相手を吹き飛ばすほどの勢い、小手先の技を無効化する突進力こそ、お前の真骨頂だ!!」

晶の中で何かが目覚めた。

「うん、そうだね」

美由希も続ける。

「晶から勢いを無くしたらただの空手家だね、それじゃレンに届かないよ」
「うむ、相手を突き抜けるほどの攻撃力を以ってこそ、晶の――」
「師匠!!!」

晶が立ち上がった。

「師匠、分かりました!」
「そうか」
「俺、『突き抜け』てみせます!! そういう意味ですよね!?」
「む?」
「え、ちょ」
「レンが何をしようと、それこそ、どう抵抗しようがガードしようが最後までイってみせます!!
 ええ! 手加減なんかせずに『突き破って』みせますよ!!」

晶は無意味に萌えていた。

「ねえ、恭ちゃん」
「う、うむ、なにか別の方向に走ろうとしてるような……」

後ずさりしてる二人をしり目に、
晶はふっふっふと妖しい笑みを浮かべてた。
つばを飲み込み、口もとをぬぐってる。

「レン、言ってたんですよねぇ」

鼻息が荒い。

「最初は旦那さんに、ぜったい捧げるって、つまり!」

ぐっと拳を握る。

「最初の人になればレンの旦那さんになれるってわけですよね!!」
「いや、それは違うと思う」
「恭ちゃん、晶、もう暴走してるよ、聞いてない」

晶は、ニカっとオットコマエな笑みを一つ浮かべ、

「じゃ、師匠、俺イってきます」

疾走した。
その走りは、まさに野獣。
獲物を食いちぎるまで止まらない勢いだった。

「………」
「………」
「………」
「………」

地獄のような沈黙が、残った二人に降りていた。

「恭ちゃん」
「なんだ……?」
「止めなくていいの?」
「……美由希、お前には止められるか」
「……」

美由希は考えた。
あの晶の血走った目と表情。
阻むものを全て破滅させるような笑顔。
闘う闘わないではなく、もはや関わり合いになりたくなかった。
あれはもう逝っちゃってる顔だ。

「ごめん、無理」

先ほどまで修羅だった人間が白旗を上げた。

「………そうか」

それだけしか言えなかった。


その日、高町家ではレンの絶叫が聞こえたというが、家族の者は沈黙を保った。
恭也と美由希が介入しようとする家族を止めていたのだ。決して関わるべきではない、と。
晶を邪魔する者はもういない。

結果は、神のみぞ知る。



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あとがき

どうも、nonokosuです。
晶TSもの? いかがでしたでしょうか。
どうにも妙なものが出来てしまいましたが……
おもいついたキッカケは「レンのシナリオ、ラストは主人公いいとこなしだな〜」てな感想からです。
明らかにオットコマエな晶がレンをフォローしてますし、カッコいい。
『ならばこのふたりをカップルにしてしまえ!!』という脳内電波が全ての始まりでした。
犬猿の仲のふたりが紆余曲折の末に結ばれる、うむ、王道だ! 
などと自画自賛して書こうとしたのですが……書けない。
というか、晶がレンを夜這いして無理やりとか、晶がストーカー化するとかヤバイのばっかでした。
なんで、まあ、その前段階を書こうと思ったのがこれです。
え〜、なのであまりオチてないですね。
流れも後半悪いですし。
更に言えば、ヤバさもあまり変わってないような……
海よりも深く反省します。