○月1日

今日から、日記をつけ始めることとする。
あるじに薦められた為だが、もうひとつ意味がある。
計画の進行具合を確認するためだ。
あるじは「無断で機器を再生しない」と断言してくれた。
戦闘中はともかく、普段、約束事をして、あるじが破ったためしは無い。
信用できるのだ。
計画名はこうする。

『あるじ所有計画』



残るもの 残されるもの 第5話

リアル喰人鬼ごっこ(戦略編)




○月2日

計画の第一歩だ。
あるじの料理を手伝った。
たいそう喜んでくれたが、わたしはほとんど戦力にならなかった。
・・・なにゆえATブレードで切ってはいけないのだ?
あんな包丁という、切れ味もなく細かい作業もしにくい武器を、わざわざ使う意味が理解できない。
まあ、まな板とキッチンまで千切りしたのは、確かにわたしの失敗だが。

どうやら精進が必要だ。


○月3日

今日は包丁の使い方を学んだ。
ふむ、材料を押さえる指を曲げるのだな、そうすれば切られずにすむ、と。
・・・わたしとしては、指真っ直ぐでもなんの不都合も無いのだが・・・
あるじが付きっきりで教えてくれたので、それは止しておく。
あるじは、わたしが料理を習い始めてから、とても優しい。
『料理』を作ったら、もっと喜んでくれるだろうか?


○月4日

また包丁技術の習得だ。
形にはなってきたのだが、あるじのようにテンポがよくない。
作業効率は、わたしが1に対してあるじが9ぐらいだろうか。
あるじは「慣れれば速くなるよ」と言ってくれたが、本当であろうか?
わたしが慣れれば、あるじも慣れる。
この差は永久に縮まらないのではないだろうか・・・


○月5日

昨日と同じく。
違うことといえば「お鍋の火加減みてて」と言われたくらいか。
いままでは、「シアに火を扱わせると、なにかとんでもないことが起きそう」とさせてくれなかった。
何気にあるじは失礼だ。
まあ、確かに炎をみていると、心ざわめくのを感じるが。
それでも、せいぜい、あるじに噛みつくぐらいだ。
あ、計画を企てたきっかけを思い出した。
記録しておく。
もともとは『わたしは本当にあるじを喰いたいのか?』という疑問だ。
その次に『あるじがディラックの海で寝はじめた』があるのだが・・
わたしはあるじを見ても、涎は出ない。
綺麗だな、と思うことはあるが、直接に食欲がある訳ではない。
わたしの欲求は『あるじを自分のモノにしたい』だ。
それを、正直に言えば、どう表現したら良いか分からないのだ。
あるじを口にしたのは、たまたま、と言っては言い過ぎだが、それに近い。
まあ、だから、ちょっと『反対』もやってみようと思ったのだ。


○月6日

あるじの料理する姿は、本当に楽しそうだ。
どうしてなのかと問うたら「食べさせたい人が、傍にいるからだよ」とあの笑顔で答えてくれた。
・・・・けっこう、照れる。
あるじはたまに、殺人的にわたしのこころを掴む、ただでさえ、笑顔と目線でわたしを掴んでいるのに、だ。
これ以上はわたしを『どうしようもない気持ち』にさせないで欲しい。
・・・今夜こそ喰べに行きたい・・・・・


○月7日

今日もあるじがディラックの海で寝る。
・・そんなに嫌なのだろうか?
わたしは寂しくてしかたがない。
はじめて説明された日は、頭で納得してても、恐怖でいっぱいだった。
あらかじめ言われてなければ、わたしは外を当ても無く彷徨っただろう、泣き叫び、あるじの名を呼びながら・・・
正直に言えば、今もそうしたい。
ここにはあるじの呼吸が無い、ここにはあるじの匂いが無い。
それを探しに行きたい。
わたしは枕を噛む。
こんなことで『飢え』は満たされない。
早く、早く学ばなければ。


○月8日

朝、あるじの姿を確認することで、わたしの生活は始まる。
あるじの匂いと体温を感じなければ、蘇生できない。
長い長い夜を抜け、わたしはやっと安堵する。
あるじを抱きしめて、1時間は動かない。
ちょっと、幸せだ。
わたし達は、基本的に日の出と共に起き、夜は日が沈むと寝る。
だから、夜明けの気配は、わたしをワクワクさせるのだ。
夕焼けの方は思い出したくも無い。
そんな生活をする理由は、燃料が勿体無いからだ。
あるじは「シアが電力を作れる筈」と言うが、そんな事、昔はともかく現在は出来ない。
まったく、あるじ本人にも出来ないのに無茶を言う、それに例え出来ても、その姿を思い浮かべると、少しヤダ。

・・・やっぱり、鼻にコンセントなのだろうか?


○月9日

・・計画に重大な欠陥が発覚する。
わたしの計画はこうだった。
@ あるじに『わたし』を喰わせる。
A あるじを内側から侵略。
B 後はあるじの記憶を変えたり、もっと優しくしてくれるようにしたり自由自在! だったのだが・・・
私はピクピクしてる肉片を見て、ため息をついた。
どうやら、わたしに遠隔操作の才能は無いらしい。
回復力はかなりのものだと思うのだが・・・
あるじが両手を操っているのを見て、『これはいける!』と思ったのは早とちりだったらしい。
・・・計画の変更をしなければ。


○月10日

「ふう・・・・」
夕食の後、風呂に入る。
このリリンの文化には、やっと最近慣れた。
慣れてみると悪くない。
はじめは落ち着かないこと、この上なく、全力で拒否していたものだが。
熱い湯なんて、わたしの概念にいままで無かった。
唯一近い、サンダルフォンの件を思い出させるのだ。
あるじが平気で入っているのが、信じられなかった。
どうしたら適応できるか考え、『昔と同じ状況』にすることを思いつく。
初号機だった時のLCL漬けだ。
ちょっと血液を足して、良い感じとのぼせていたが、あるじが発見して恐慌をきたしたので、あえなく中止。
どうも、わたしが自殺してると見えたらしい。
・・・リリンはなにかと面倒だ。


○月11日

あるじに、ディラックの海に逃げ込まれたきっかけ・・・
あれは、わたしがいつも通り、あるじに『夜襲』をかけていた時だ。
わたしが『ちょっと』調子に乗って、あるじのコアが剥き出しになるほど『してしまった』のだ。
その時のあるじの顔が、また、その、何というか、反則だったのだ。
あんな怯えたような、泣きそうな顔をされては、抑えが効くはずもなく。
「あるじ、ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながらも更に・・・
その後、逃げるあるじと、追うわたしという激戦が開始され、熱い夜が更けていったのだ。
そんな訳で,朝、あるじが「明日からディラックの海で寝るから」と言っても、わたしは文句を言えなかった。


○月12日

新たな計画を考える。
あるじ操作計画は頓挫した。
ここはリリンの文化に習おうと思う。
つまりは、毒殺だ。
いや、ちがう、殺してどうするわたし、えー、つまりは薬物である。

昼間のうちに、薬局で見つけておいた睡眠薬を、あるじの隙を見つけて、スープ鍋に入れる。
わたしも飲まなければならない危険性はあるが、これは即効性。
しばらく飲まないだけでいい。
わたしたち使徒には、ちょっとやそっとの薬は効かない。
すべてはS2機関があるためだ。
自然、混入する量は、致死量よりも上になる。
精神を集中して、スープを皿に注ぐ。
いただきますの合図は、戦闘開始の合図だ。
わたしは自然に、出来るだけ自然に会話を進める。
「あるじ、スープが美味しいぞ」
・・いや、これが精一杯だ。
「ん? そう?」
けど、上手くいってたのだ。
そのスプーンが口に入る直前に、ぴた、っと止まった。
わたしの心拍数は跳ね上がった。
しげしげとスプーンを眺めていた。
汗が出るのは自然現象だ。
くんくん、匂いをかいでいる。
わたしの持っているスプーンが、震える。
数秒たって、あるじは飲んだ。
「うん、美味しいね」
「そ、そうであろう?」
あるじの目が、鋭いのは気のせいだろう。
その後も、あるじはわたしの顔を見ながら、スープだけを飲み続けた。
笑顔なのも、またプレシャーだ。
「あ、あるじ?」
「なに、シア」
あるじがわたしの名を呼ぶ音はいつも好きなのだが、今日はとても、それこそ作為的なまでに優しい気がした。
「た、体調はどうだ? なにか、こう、変化はないか?」
「うーん、よく分からないなぁ、具体的には?」
「む、あ、あくまで一例だが、不思議なほど眠気があるとか」
「あー、それは大変だね、そうなったらシアが看病してくれるのかな?」
「む、無論ではないか」
見透かされている気がするのは、気のせいだろうか・・・
「シア、さっきからスープが減ってないね・・」
「そ、そのようだな、わたしとしたことが」
「うん、早く飲みな? 冷めちゃうよ」
どうして、一体どうして・・
あるじの皿は、もう空なのに。
第3使徒サキエルあたりならKOする程の量なのに。
わたしのスプーンは激しく震えていた。
「そういえばシア、こんな話は知ってる」
「む?」
「インパクト前の貴族の中には、味だけをもっと楽しむために、腹いっぱいになると吐いて、また食べるような風習があったって」
「そ、それはもったいない」
「本当だ。僕もそんなことはしたくないよ」
意味ありげにため息を吐いた。

あるじの18番、『ディラックの海』を食道に作ったか!
いくら飲んでも大丈夫なはずだ。
「ぬう」
わたしは負けた。
スープを飲む。
最後に、あるじの慌てた顔を見た。


○月13日

敗者は罰を・・
眠気が、絶え間なく・・
これは・・・凄い。


○月14日

意外と、看病されるのも嬉しいものだと知った。
存分に甘えられるのが良い。
「まだ、体調が万全じゃないから寝たほうが良い」とあるじに言われ、ベッド生活を送っている。
あるじには悪いがこれを機に、『して欲しいこと』を存分にねだる。
「あるじ、添い寝してはくれまいか」
「あるじ、子守唄というのを謡ってくれまいか」
「あるじ、りんごを剥いて欲しい」
「あるじ、絵本を読んでほしい」
「あるじ、『あーん』というのは、どのようなものだ? ぜひ、実践で教えて欲しい」

最後に「あるじ、あるじが欲しい」と言って噛み付いたら、逃げられた。
半分冗談だったのだが。


○月15日

今日は雨、それも台風直撃の大雨だ。
雷というやつは、なかなか面白い。
光るのは嫌だが、愛嬌がある。
音と閃光の時間差攻撃とは、なかなかにお茶目なやつだと思った。
・・ふと気が付くと、計画のことを忘れてしまってる。
これではいけない。
あ、また光った。
うむ、自然は凄い。
雪というのも見てみたいが、ここでは無理だそうだ。
インパクト前は、今の季節に見えたらしいが、夏だけとなり、四季がもはや死語になったのでは流石に無理だろう。
『雪の山荘に閉じ込められる』というのは、やってみたかったのだが・・・
まあ、わたしとあるじではサスペンスにならずに、アクションになるのだろう。
罠を張り巡らす暇があるなら、直接、襲った方が手っ取り早い、閉じ込められるなら逃げ場も無いのだろうし好機だ。
まあ、同じ『物語のような』といえば、わたしは是非ラブ・ロマンスをしてみたい、それも、この前見た『サロメ』のような、できれば、最後はハッピーエンドで。
あるじの生首を持つのは、どのような気分であろうか。
・・・部屋にばかリ居ると内省的なことを考えてしまう。
あるじは、雨漏りの修理で忙しかった。
別にずぶ濡れになっても、わたし達は関係ないと思うのだが・・・


○月16日

前回の計画の反省点を考える。
睡眠薬→もろもろの薬物でわたしの虜、というコンボは、初段で失敗した。
考えてみるに、やはり、原因は『ディラックの海』だ。
どのような攻撃でも『移して』しまう防御は、究極のひとつと言えるだろう。
あれをどうにかしなければ、わたしに未来は無い。
なので、隠れて『遠隔操作』の練習も、している。
あるじに教われば、急速に上手くなれるだろうが、それでは意味が無い。
『敵を知り、己を知れば百戦あやうからず』なのだ。
意味はよく分からない。
ともかく、今は小型球のフィールドを操る練習をしている、いきなり『肉片』からではなく、フィールドで慣れようという魂胆だ。
小型の球を作る、これだけでも結構、難しかった。
単なる小球ではない、出来るだけ『中身の詰まった』球を作るのだ。
イメージが難しい。
現実に対応し、出来るだけ小さい方が良いから、尚のことだ。
その後の操作は、わたしに合っていたのか意外と出来る。
びゅんびゅん、と自由に飛ばせた。威力も結構ある。ただ、武器としての使用には耐えないだろう、速度が出るまでに時間がかかり過ぎるのだ。
まあ、だいたいは満足だ。
家に帰って、あるじに「おかえり、上手くいってる?」と言われながら、濡れタオルで顔を拭いてもらった。
うむ、満足。


○月17日

「そろそろ鍋の使い方も練習してみようか?」と言われた。
言うまでも無いが、あれからも料理は続けていた。
包丁での作業効率差も、だいぶ縮まってる。
ついに、夢への第一歩だ。
あるじ曰く、「中華の基本は炒飯」だそうで。
見本として、あるじが手早く作ってみせた。
相変わらず早い。
中華鍋を『かえし』て使い、早く、確実にご飯をぱらぱらにする。
玉子を初めに入れるので、2分以内に完成させなければ食感が悪くなる。
材料はあらかじめ切って、油通しをするものはしておく。
などなど
注意事項を教えてもらったが、『かえし』の時点で、ご飯を天井に叩きつけてしまった。
張り付いたまま落ちてこない。
・・・威力は充分だったようだ。
その後も食材を散弾に変えながら、わたしの練習は続いた。


○月18日

料理の心は、相手に美味しく食べて貰うこと。
わたしの目的は『わたしを』美味しく喰べて貰うこと。
うむ、がぜん、やる気が出てきた。
廃墟のようなキッチンで、わたしは決意を新たにした。
ただ、力いっぱい、鍋を振るえないのが口惜しい。
わたしの情熱が伝わらないではないか・・・


○月19日

鍋を『上げる』のではなく『引く』ようだ。
見た目に惑わされた。
きちんと鍋に食材が戻ってくるようになった。
・・受け取るのに走らなければならないが・・・
火の下にある時間が極端に短いので、完成しない。
完成しても、ご飯が一塊の餅状になった・・・
力加減ってむずかしい。
あるじ曰く「キッチン中に残像を作りながら、調理をしないように」だそうだ。
無茶を言う。
そうしなければ、食材をキャッチできないではないか。


○月20日

わたしは必ず夢を見る。
大抵は、その日の出来事で、日中に抑えていた気持ちがそこで爆発する。
そうして、あるじを求めて『夜襲』をかけるのだが。
今日は『うまく炒飯を作れた』夢を見た。
嬉しい。
当初の計画とは関係なく嬉しかった。
現実は、まだまだ厳しいが・・・


○月21日

わたしは、何故、こんなにもあるじが欲しいのだろう。
あるじは、わたしが甘えれば甘えた分だけ、応えてくれる。
わがままを言っても聞いてくれる。
たぶん、それが不満なのだ。
あるじは、どこかわたしに対して、線を引いてる。
『あるじがしたい事』をわたしにしない。
その原因は過去なのだろう、判断する基準とは、過去の経験が基になる・・・
目の前のわたしより、過去に囚われてる。
それが、つらい。
それが、苦しい。
何があったか詳しく知らないが、もっともっと、わがままになって欲しい。
わたしは、それに応える。
応えてみせる。
わがままを言われたのは、最初の名前決めくらいだろうか、冗談を言われることはあっても、後は驚くほどに私利私欲がなかった。
だから、わたしはこの名が、この音が大切だ。
わたしは何億年たっても、自慢して言える。「わたしの名はシアだ」と。
がまんなんか、しないで欲しい。
あるじと一緒なら、破滅したってかまわないのに・・・


○月22日

『遠隔操作』で気がついたことがある。
場所が分かるのだ。
試しに『部分』を思いっきり遠くへ飛ばしても、迷い無く見つけられた。
この発見は大きい。
あるじの『海』を追跡できるのだ。
料理も時間はかかったが、完成品を作ることができた。
上手く、上手くいっている・・!


○月23日

『三度目の正直』というコトワザがあるらしい、いい言葉だ。
『二度あることは三度ある』・・所詮、コトワザはコトワザか。
今度の計画こそ上手く行くはずだ。
計画の第1段階、決行は明日。
問題はわたしの料理。
今日も『ちょっと』焦がしてしまった。
だが、大丈夫、あるじはそれでも食べてくれた。
うむ、きっと大丈夫。


12月24日

わたしとしたことが、月の入力を忘れていた。
今日は12月24日、インパクト前にはクリスマス・イヴと言われていた日だ。
あるじはクリスマス・パーティーを開くらしい。
普段であれば、「あるじはクリスチャンか?」とか「あるじは、神を称える気なのか?」とか「これは七面鳥を捧げる儀式なのか?」と疑問・ツッコミを入れる所だが、わたしにも料理をさせてくれるという一点で、水に流した。
顔がにやけるのを抑える。
『仕込み』はもう前日にしておいた。
クリスマスに炒飯が似合うかどうかは置いておく。
これからパーティーの準備が始まる!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、顔が、顔が笑顔になるのを止められない、身体が熱い、ベッドをバンバン叩いてしまう・・
パーティーが終わった。
成功だ。
大成功だ!
あるじが「美味しいね、コレ」と言ってくれた後、わたしの鼻息が荒くなるのは、どうしようもなかった。
なんども「あるじ、美味しい? 本当に美味しい?」と聞いてしまった。
「うん、もちろん」と言われる度、あの笑顔を向けられる度、あるじが飲み込む度に『どうしようもない気持ち』がせり上がってきた。あのまま一緒にいたら『メインディッシュ』に突入していただろう。
この気持ち、なんと言ったらいいのだろう、あるじが何も知らない無邪気な顔で、ただ笑顔で「美味しい」と喰べている姿を見ると、もう無茶苦茶にしたくなる。
その頭を胸にかき抱き、その顔を爪で思いっきり引っかき、その血を舐めながら「あの材料はね・・」と事細かに説明してしまいたい気持ち。
傷つけたいのと愛しいのが混線してた。
でも、
天井を見る。
あるじの居場所がわかる。
この幸せはぬくもりだ。あるじとわたしが繋がっている・・・
あるじが近づいてきた。
「シアー、ケーキ食べよ−!」
わたしは返事を言って、扉を開けた。


さて、夜も更けてきて、いよいよ本日の『メインディッシュ』・・・
あるじはもう、寝てる。
この小屋のどこにも居ない。
だが、わたしが寂しい思いをするのも今日が最後。
張り切ってあるじの部屋を開けた。
あるじのベッドの上に乗る。
むう、あるじの匂い・・・・
ここで寝てしまいたくなる、くうっ、負けてなるものか・・
周りを見渡し、あるじが『渡った』場所、一番わたしが引かれる場所を探す。
やはり、このベッドだ。
わたしは目を閉じ集中する。
この向こうにある広大なATフィールド場、そことここを繋げるのだ。いや、繋げるでは生ぬるい、破壊する! 憎らしい『壁』を完全に爆破する!! 滅却する!!!
目を開いた!
ガラスを20枚くらい叩き割った音が響き、いびつな『穴』が開いた!
そして、
そして、その向こうに『寝てるあるじ』が居た。
夢にまで見た光景だ。
寝ぼけてるようだが関係無い。
足首を掴みわたしは言う。

「あるじ、メリークリスマス・・♪」


12月25日

昨日は熱かった。
混乱するあるじ、存分に『甘える』わたし。
最後には逃げられてしまったが・・・・
だが、計画の第3段階は、そこから始まったのだ。

わたしは、あるじのいなくなった『海』で、微弱なフィールドを広げた。
広い。
この広大さはちょっと、とんでもなかった。
5m。
10m。
20m。
40m。
80m。
160m。
320m。
640m・・・・
まだまだ、余裕がある・・・
一県くらいなら、すっぽり入るのではないだろうか、それぐらい広げた時、ようやく端に接触した。
びりっ、と弾かれる。
ここからが重要だ。
あるじのATフィールドと同化する。
もう、二度と逃げ込めないように。
基本はシンクロだ。
直接シンクロしていた時を思い出す、あれは『あるじからわたしへ』のシンクロだったが、今度は『わたしからあるじへ』とシンクロする、あるじのこころに融けこむ。
わたしはリラックスした。
こころを開く、委ねる。
この、『あるじのこころだけの世界』で。

わたしたちは、ひとつになる。

・・赤と紅が、反発しながらも近づく、わたしの全身に震えが走る。
惑星と惑星のような『巨大なものの接触』。一部が触れ合えば、後は瞬く間だった。
広大なフィールド場が塗り替えられる、変わって行く。

・・・・・・同調、した・・・・
涙が、出た。
あるじのこころが伝わる。
「・・・・・・・・・・・・・・わたしだけじゃなかった・・・」
わたしだけが、あるじを愛しているわけではなかった。
伝わる。
あるじが、どれだけわたしを想っているか。
いびつな色と形だけど、それは何よりも温かく。
「わたしを傷つけたくない? そんなのいくらでも・・・・」
『ディラックの海』に逃げ込んだ理由がそうだった。
コア露出まで行けば、反射的に私を攻撃するかもしれない、それを何よりも恐れたのだ。
むろん、それ以外の理由、『シアに喰われる最後はいやだなぁ』とか『あの時のシアの顔、怖かったー』といった理由もあるが、一番はそれだった。
まったく、素直じゃない、なぜ直接そう言わないのだ。
そうしたら、こんなに寂しい思いをせずにすんだというのに。
そうしたら、『あるじに嫌われているかも』と心配をせずにすんだのに。
「あるじ、あたたかい・・・」
共有化された部分から、ぬくもりが流れてくる。
わたしのこころは、そんなにも冷たかったのだろうか?
いや、あるじがもっともっと、あったかいのだ・・・
精神的な奇形。
これはシャム双生児みたいなものだろうか。
それでも、

わたしは何よりも幸せに『ここ』で泣いて眠れたのだ・・・




12月26日

反省。
わたしにサードインパクトを非難する資格はない。
こころの一部だけでも、あんなに幸せだった。
全てだったらどうなっていただろう。
『全人類』とはごめんだが、『あるじだけ』となら喜んで融けあいたい。
いま、フォースインパクトを起こしますか? と問われれば、即座に「うん」と言いそうだ。
でも、あるじはそれに『是』を言わないのだろう。
理由ははっきりと分からない、けれど、確信してる。
・・・むう、困った。あの感覚はハマリそうなのだ。
代わりに『料理』をする、せめてこれだけでも一緒に・・・


12月27日

今日はあるじと映画を見た。
「情操教育に・・」とか、呟いていたが、まあいい。
初めの『動物が全編でてくる映画』は、わたしが「これはどのような味なのだ? 美味いのか? 不味いのか?」と聞きつづけたら中断された。何故か頭を抱えてる。
次の『2人の男女が運命的に惹かれ合う映画』では、よく分からないシーンで中断された。質問しても、とても焦った顔で誤魔化される。むう、何故、彼らは裸だったのだ?
ラスト、『終盤でどんでん返しがある映画』は感心した。なるほど、切り札や情報を最後まで隠すのか、一番効果的な場面で使ってこそ勝利をもぎ取れる、ふむふむ、参考になる。あるじはわたしが気に入った理由を理解できないようだった。「本当にコレでよかったのか?」と呟いてる。
また、会話中に分かったのだが、あるじは『共有化』に気づいてない。
意外と鈍感なのか?
わたしの侵入も、『たまたまベッドで暴れた為』と受け取ったらしい。
・・・いろいろ納得ゆかない点もあるが、これは好都合。
計画は最終段階に入る!


12月28日

考えてみるに、あるじは戦術には強いが、戦略には弱いことが判明。
いざ戦闘、となると、勘や思考が冴え渡り、わたしを騙すことしか考えないようなあるじだが、普段はわたしを信頼しきってる、いや、だらけきっている為、罠のかけ放題なのだ。
ただ、わたしが戦闘モードに入るとそれを敏感に察知し、こちらに主導権を決して渡さなくなる。
果てしなく厄介だ。
だが、裏を返せば、『あるじのいない所』では、何をやっても大丈夫ということだ。
「戦う前に勝つ、それが理想」あるじはそう言っていた。
その教えに従おうと思う。


12月29日

交渉の末、朝食の作成権を手に入れた。
これで毎朝『料理』を作れる。
一日中、幸せだ。
最近はあまり『夜襲』にも行かなくなった。
そんなことをしなくても充分なのだ。
ただ、あるじに怪しまれるといけない、今夜あたり、するべきだろう。
ふふふ・・
あ、あと、あるじのディラックの海、中身は凄かった。
一例をあげると、
円形に加速しつづける『過粒子』が『たくさん』。
これだけでも悪夢の光景だった。
ある一角が輝いてると思ったら、天を見上げる程の『円形』が、縦・横・斜めを無視して大量にあった。
あるじがその気になれば、これだけでも地球を壊せそうだ。
N2地雷が無造作に置かれてるのも、驚愕だ。
もっと、探索を続けるが、とんでもないものが、まだまだ有りそうだ。
・・・また、わたしの『ATカノン』(命名)も、この『円形』に加えることにした。
これで、問題だった初速もバッチリになった!


12月30日

この月は、ニホンの古い言葉で『師走』というらしい。
もとは師が走るほど忙しい、という意味だ。
わたしにとっての師であるあるじにも、この際、走ってもらうことにする。
つまりは鬼ごっこだ。
ふふふっ
あるじ最大の武器、ディラックの海は既にわたしが握っているっ。
勝てることの確定した勝負とは、何故、こんなに楽しいのであろう?
含み笑いが止まらない。
あるじが、ちょっと引いた顔でわたしを見てた。


12月31日

今日はオオミソカ、らしい。
一年の締めくくりとして『年越しそば』を食べるのだ。
『ジョヤノカネ』とやらもした。
無人の寺で、真っ暗な中あるじと2人、108のカネをつくのはちょっと怖かった。
あるじが昨夜、『怪談』を聞かせたせいだ。
あれは絶対に確信犯だ。
おかげで『夜襲』もトイレも出来なかったではないか・・・
わたしは絶対あるじの傍を離れなかった。
明日は、いよいよ初日の出だというのに・・・

・・・・・・だから、夜中、こっそりと山を消しにいった時も、怖くてたまらなかった。
おのれ、あるじ。


1月1日


万感の想いを込めて、わたしは言った。


「あるじ、鬼ごっこをしよう」